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春うらら
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点字のお手紙事始-ある傷痍軍人さんとの思い出

 先日、ある演劇ユニットの脚本・演出家の方から、
「傷痍軍人(しょういぐんじん)をメインにした芝居を作るので、
目の見えない人のことについていろいろ教えてほしい」という相談をいただき、
お会いしてお話する機会を持ちました。
私たち「演劇結社ばっかりばっかり」の稽古場に、
失明傷痍軍人役の方と一緒にみえて、
いろいろ私たちの話を聞いてくださったのですが、
そのとき話している中で、思い出したことがありました。
もう何年も忘れていたことだったので、自分でも驚いてしまったくらいでした。

 そもそも、その思い出すきっかけになった話というのは、
「点字を使えるのは、ほんの一握りの視覚障害者だけで、
多くの中途失明者は点字を知らない」ということを説明したことでした。
年配の失明者の方の多くは「今から覚えようとしても、疲れるだけだ」と言って、
あえて点字にチャレンジしないのだと説明しているうちに、ハタと気づいたのでした。
今は、音声パソコンの普及と、読み書きを助けてくれるボランティアの充実もあって、
無理して点字を習得しなくても、あまり不便を感じないで暮らせるから、
中途失明の方の点字離れが顕著になったのではないか、ということに。
もしかすると、戦後まもない頃には、点字を習得せざるを得ない状況があり、
視覚障害者の数に占める点字人口のパーセンテージは
もう少し高かったのではないかと。

 そこで浮かんできた思い出というのは、
私が生まれて初めていただいた点字のお手紙のことでした。
薄い茶封筒に入れられた点字用紙1枚分のお手紙。
残念ながら、もう手元にはないのですが、
それは福島県いわき市の実家の近くで治療院を開業しておられた、
正に、元傷痍軍人のおじいさんからいただいたものでした。
 そのおじいさんは、戦争で失明してしまったばかりでなく、
片腕を肘のすぐ下から飛ばされてしまったという痛々しい障害も
負っておられましたが、鍼灸・按摩の腕が素晴らしいということで、
その界隈ではとても評判の治療師さんで、
うちの両親も祖父母もお世話になっていたようです。
なんと、飛ばされてしまった腕の痕が癒えてツルンとなったところで
器用に揉まれるのがまた格別気持ち良いというのです。
今思えば、自分にとってハンディになっている部位を隠すどころか、
それを利用して治療されていたこのおじいさんは、
ものすごい人だと改めて尊敬してしまいます。
もちろん鍼の腕前も素晴らしく、幼い私の記憶の中にも、
ぎっくり腰で動けなくなった母が、
帰りには歩いて帰ってきたという奇跡のような出来事が鮮明に残っています。
 ルールどおり、裏の4・9・14行目に折り線を入れて
きちんとたたまれたその手紙の文面は、もうほとんど忘れていましたが、
誤字一つなく、綺麗に分かち書きされたものだったと記憶しています。
覚えているのは、「めぐみちゃんも点字を覚えられて良かったですね。
これからしっかりお勉強しなさい。」といったような内容だったと思います。
盲学校の小学部1年生の冬頃だったと思いますが、
くすぐったいような、嬉しいような気持ちでその「おてがみ」を大事に
机の引き出しに仕舞ったことを憶えています。
 千葉さんというそのおじいさんは、もうとっくに故人となられましたが、
ご存命中にもっといろいろお話を伺っておけば良かったと、
今回改めて残念な気持ちになりました。

 今回ご相談にみえた演劇ユニットの公演は、
終戦の日近辺に上演されるようですが、詳しい情報が分かり次第、
またこのコラム欄でご紹介したいと思います。
 演出家の方・役者さん、共にまだお若いお二人は、
とても真面目に視覚障害者について考えていこうとなさっているし、
また観劇上でのバリアフリーも検討していってくださるようなので、
本当に応援したいと思ったのでした。


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(「週刊福祉情報」コラムニスト・美月めぐみ)



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