[スポンサードリンク]
春うらら
トップページ » コラム » 読書案内 -坂木司作「引きこもり探偵シリーズ」-

読書案内 -坂木司作「引きこもり探偵シリーズ」-

 物凄い台風でしたね。
 被害に遭われた地域の皆さん、心よりお見舞い申し上げます。

 さて、今回は読書の秋にお薦めしたい小説をご紹介したいと思います。ミステリーをほとんど読まない私が、あっという間にはまり込んでしまったミステリーです。
 坂木司(さかき つかさ)さんという作家の方が書かれた、『青空の卵』『仔羊の巣』『動物園の鳥』の3作から成る「引きこもり探偵シリーズ」です。

 ミステリーファンの中には不満に思われる方もおられるかもしれませんが、このシリーズでは殺人事件は起きません。でも、放っておいたらどうなったかとひやりとさせられるようなことは多少あります。それを未然に解決してしまうところが、このシリーズの優しさでもあると、私は思うのですが。

 外資系の保険会社の営業担当をしている青年・坂木司の一人称形式で書かれるこの小説の主役は、本人ではなく、その相方の青年鳥井信一(とりい しんいち)です。
 鳥井は、コンピュータプログラマーとして自立した生活を営んでいますが、じつは強度の引きこもりで、親友である坂木が一緒でなければ近所での買い物さえできません。しかも、抜き身のナイフみたいに他人を傷つける危険性のある言葉を放つくせに、自分自身も物凄く傷つきやすい。そんな鳥井が唯一心を許し、大切に思っているのが坂木なのです。
 そして、坂木はといえば、この上ないお人よしで心優しい人物です。彼の願いは「誰もが笑顔でいられること」です。
 この対照的な二人が、どうして唯一無二の親友になったのか、鳥井がどうしてこんな精神を抱えることになったのか、といった物語の根幹に関わることがらを少しずつ描きながら、近所で起こる人間臭い出来事を解き明かしていく幾つかの物語が綴られていきます。
 解き明かすのはもちろん「引きこもり探偵」こと鳥井です。彼はマンションの一室にいて、坂木が持ち込んでくる厄介事を、鋭い洞察力と分析力であっという間に解決に導いていきます。
 また、鳥井は、引きこもってはいますが、探偵物にありがちなぐうたら探偵ではなく、とてもまめな人間で、特に料理の腕は並外れています。食いしん坊の私などは、ぜひとも鳥井の部屋にお邪魔して一口お相伴に預からせていただきたくなってしまいます。

 ここまでご紹介したところでも面白さはある程度伝わっているかもしれませんが、このシリーズの面白いところは他にもいろいろあります。
 代表的なところでは、この物語ではそれぞれの事件の中心人物となった人が、当たり前にその後も良い味の脇役として残っていくことです。しかも、その脇役たちの中には、いつの間にか鳥井の食卓に座るはめになっている人物もいたりするのです。
 きっと、「ズボシ」という抜き身のナイフで切りつけて膿を出す鳥井と、その傷口を優しく縫合して包んでしまう包帯のような坂木の名コンビが、関わる脇役たちを癒しているからなのかもしれません。

 また、1作目の『青空の卵』から登場する中途失明の青年がいるのですが、彼を巡る様々な事柄を読んでいると、作者の坂木さん自身、ちゃんと視覚障害者と関わったとしか思えないほど、よく描かれているのです。これには本当に驚かされました。
 いったい、坂木さんという作家さんはどんな人なのだろうと、物凄く興味が湧いたのですが、残念ながらこの人、顔はおろか、性別さえ公表していない覆面作家さんなので、その正体はようとして知れないのです。自身の書いた作品の登場人物の名前をペンネームにしている坂木さん其の人こそが最もミステリアスな存在のようです。

 このシリーズを先に読んでいたうちの相方は、既に他の作品も読んでいるのですが、「いずれもアタリ」とのことなので、暫くはこの作家さんの作品を追いかけてみようと思っているところです。
 ちなみに、私が最初に読んだ『短劇』という短編集も、いろんな色の作品がいっぱい入っていて、とても面白かったので、長編が苦手な人にはこちらをお薦めしておきたいと思います。

 今回ご紹介した、『青空の卵』『仔羊の巣』『動物園の鳥』『短劇』は、いずれもないーぶネットでダウンロードできますので、視覚障害者の皆さんもぜひ読んでみてください。


ながら仕事でもホームページが楽しめる音声ブラウザ・ボイスサーフィン


(「週刊福祉情報」コラムニスト・美月めぐみ)

by amedia  at 17:15