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30年近い時を越えて

30年近い時を越えて
(美月めぐみ)

 昨日、恒例のアメディアフェアが開催され、私は相方の鈴木大輔と共に、今年も司会を務めさせていただきました。
 このアメディアフェア、なんと今年で第20回!!うーん、私もそれなりの年齢になるわけだ。ふぅー。

 そんな想いを胸に秘めつつ、浅草橋の東商センターの会場で朝1でお迎えしたゲストが、東京大学教授の福島智先生。ご存知の方も多いかと思いますが、福島先生は盲ろう二重障害の身でありながら、都立大学を卒業後、金沢大学助教授、東京大学助教授を経て、現在は同大学の教授となられた方です。
 この福島先生の講演『点字が切り開いた我が人生』が、今回のアメディアフェアのイベントのメインディッシュでした。
 福島先生は、とにかくお話しが楽しいので、司会の身でありながら、私は前々からとても楽しみにしていました。

 そして登壇されるに当たってのご紹介で、私は見事に会場の皆さんに告白しました。じつは、私は筑波大学附属盲学校の高等部普通化にいたころ、福島君とクラスメイトだった時期があることを!同じ教室で机を並べていた仲間でも、かたや天下の東大の
教授先生、かたやしがないバイト人をしながらの役者生活、みたいなことを言ったら、
会場からしっかり笑いをいただきました。
 そんなわけで、オフィシャルなプロフィール紹介ではやむなく「福島先生」という呼称を使ったものの、プライベートな話題になったときには、ついつい「福島君」とかニックネームである「トム」とか呼びそうになるところを、ぐっと堪えて「福島さん」と申し上げてました。(笑)

 今回のお話しの内容は、主に高校時代、既に失っていた視力に加え、聴力まで奪われていった過程とそのときの気持ち、そんな中で孤独になっていく魂を救ってくれた点字の本たちの話、そしてお母様が突然彼の指に指を重ねて点字タイプのように言葉をつむぎ出した「指点字」の始まりのこと。そこから想いを馳せて、バルビエの軍用文字から視覚障害の青年ルイ・ブライユが今の点字の原型を作ってくれたことへの感謝の気持ちまで語られましたが、私のような視覚単一障害の者たちよりも遥かに重み
のある言葉でした。

 印象に残ったことが幾つかあります。
 指点字を使うようになっても、トランプなどをしていて今一つ面白くない状況に突き当たり、ゲームその物が可能かどうかの問題ではなく、そこでゲーム参加者各自が発する言葉やちょっとした反応などに接することができないのがつまらなさの原因であることに思い至ったこと、それに気づいたのが、1対1のやり取りにだけ指点字を使うのでなく、他の人が話したことを“通訳”してもらうようになって、もう一度ト
ランプをやりながら楽しさを取り戻したときだったということ。
 また、実家で悶々としていたときに神戸の点字図書館から借りられた本は名著・名作の文学
らしい文学に偏り、芥川、太宰、三島、川端など「あれ?もしかして…!」と思わされるラインナップの本たちによって、、海底まで沈みこんだ後、その海底の砂を蹴って浮上できたと感じたこと。この2点は、非常に胸に刺さりました。

 そして、何より心打たれたのは、聴力と耳の良し悪しは違うのだと改めて感じさせられたこんな一言でした。
 「聞こえなくなってから知り合った人は、直接指点字で語り合っても声として想像ができないけれど、会場にいる人の中で、美月さんの声だけが、20うん年前の若々しい声のまま再現されてます。なぜなら、美月さんとは聞こえていた頃に知り合っていたからです。」
 「なるほど」と思うと同時に、私はあるコンサートを思い出していました。聞こえていた頃、とてもよく響く素敵な声で、見事なピアニストっぷりで弾き語りしていた福島君が、聞こえなくなって暫く経ってからのそのコンサートで、歌こそ歌わなかったものの、見事なピアノ演奏を披露していたことです。
 彼の耳には、聞こえていた頃の蓄積があり、それを30年近く経った今でも、頭の中で再生できるのだと気づき、変な言い方ですが、とても耳の良い人なのだと思ったのでした。

 その他にも、ハイテク機器の進歩は盲ろうの人たちにとっては必ずしもありがたいことばかりではないという事例として語られた、音声体重計の登場によって触読式の体重計が手に入らなくなり何十年前かに買った体重計を使い続けている話や、指点字通訳など必要な援助を受けるための社会制度が確立されていないことなど、本当に盲ろうの人の目線に経つと、解決したり切り開いたりしていかねばならない問題が山積しているのだと、今回の講演を通して、改めて認識できました。

 そんな困難な話を、会場に笑いを振りまきながらさわやかに語る福島君は、今や東大教授!状況を見つめなおしながら、私は、元クラスメイトとしての誇らしさだけでなく、本当にグレートな人なのだと心から思えた講演でした。
 福島先生、月並みな言葉しか出てこないわたしのボキャブラリーの貧困さを呪いたくなるけれど、これからもどうか元気に頑張っていってほしいと願っていますよ!

 さて、このコラムは、今年最後のコラムとなりました。
 読者の皆さん、どうぞ良いお年をお迎えくださいませ。


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(「週刊福祉情報」コラムニスト・美月めぐみ)

by amedia  at 17:31